ベいやがって面倒《めんど》くさいから、蔵ン中へ叩《たた》きこんで大戸を閉めちゃったら、阿母《おふくろ》まで締めこんでしまって――」
父はそれがくせの、左の手でやぞうをきめて、新進的代言人らしくもなく、ならずもののような巻舌《まきじた》で言った。
「祖母《おばあ》さんが厠《はばかり》へゆきたくなったとお言いだから、開《あ》けてもらいましょうというと、なに頼みなんぞおしなさんな、先方《むこう》から悪かったと開けにくるまで投《ほ》ったらかしておおき、干乾《ひぼ》しにすれば親殺しになるから、だまっていても明日の朝は開けにくるよって――」
荻野六郎は、それで飯櫃《おはち》へやったのだなと、フ、とも、ウともつかないフウーという笑《わ》らいをうなった。用心のいい祖母は、他家へ火事見舞に、握飯《おむすび》ごと入れておくる新しい大きな飯櫃をつくらせておくのだった。それが、蔵の三階の棚にあるのを、勝手を知った彼はよく知っていた。
「だが、売ったのはしどいな。」
そうはいったが、彼もそのほかの所置《しょち》はおもいつかなかった。
「なるほど、孫子の代まで、古道具屋の新らしい飯櫃は買うなと申しつけます。
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