びつ》だけ古道具屋で買ってはいけないのですか。」
「お前が出世前だからいうのだよ。」
 毬栗《いがぐり》のような男は大いによろこばされた。
「僕が出世前だからでしょう、御教訓によって米櫃《こめびつ》も買いません。」
「馬鹿なことは言いなさんな。お前の身分で、古道具屋からでも米櫃が買えればたいしたものではないか、米櫃というものは、入れておける米が買いおけるから入用なので、買いおきの出来ない米なら米櫃は入りはしない。古道具屋のでも結構だから、入れるだけの米が買えるようになったら米櫃もお買いなさい。」
「へえ? どうもそれは、ちと腑《ふ》におちませんが――」
 彼女の嫁女《よめじょ》がそばから吹出していった。
「それはね、家で売った飯櫃《おはち》が、廻り廻って、何処《どこ》で売ってるかわからないので、気にしてらっしゃるのですよ。」
 壮士荻野六郎にはなおさら話がわからなくなった。すると、彼女の息子も笑って言った。
「俺《おれ》の失敗でね、おっかさん、子供の時の味噌樽式をやったのだよ。」
 こんどは荻野六郎にもほぼ解った。彼も吹出したい気持ちで話を誘った。
「俺が酒に酔って帰って来ると、ツベコ
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