々緋《しょうじょうひ》の巾着《きんちゃく》は、おなじく将軍火事|頭巾《ずきん》の残り裂《ぎ》れだという。その時の将軍は十一代徳川|家斉《いえなり》であろう。奢侈《しゃし》を極めた子福者、子女数十人、娘を大名へ嫁《か》さした御守殿《ごしゅでん》ばかりもたいした数だという。後に大御所とよばれ、徳川幕府をひへいさせた近因だともよばれたほど、派手な時世だった。
 アンポンタンはこの祖父《おじいさん》の歿後《ぼつご》、母が嫁して来たので、生きていた日は知らないが、善良な小市民の見本であったらしい。長い間には、気がさな細君に、どんなにハラハラさせられたかしれないであろう。水野|越前《えちぜん》の勤倹御趣意《きんけんごしゅい》のときも、鼈甲《べっこう》の笄《かんざし》をさしていて、外出するときは白紙《かみ》を巻いて平気で歩いたが、連合《つれあい》卯兵衛が代ってお咎《とが》めをうけたのだ。
 小りんさんが卯兵衛|旦那《だんな》の、浮気の穴を探しだしたゆきさつは面白い。初春のことで、かねて此邸《このうち》だと思う、武家の後家《ごけ》の住居をつきとめると、流していた一文|獅子《じし》を引っぱってきて、賑わ
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