の後、時々面白い笑話がきかされた。
盲目《めくら》の坊主頭のお婆さんが死んで、その法事《ほうじ》のかえりに、浅草|田圃《たんぼ》の大金《たいきん》(鳥料理)へいったらそこの人たちが、どうした事か、家業柄にもにず、この女形を完全に女にしてしまって、御後室様《ごこうしつさま》御後室様と、お風呂まで女風呂へ案内したとか――
またそののち、曙山さんの名を養家へかえしてしまって、市川の門下になった。時勢はいつまでも彼を娘と見るような甘いものでもなく、彼もまた薹《とう》のたった女男《おんなおとこ》になってしまったが、娘ぶりより、御後室の方がまだしも気味わるくない。新富町の露路裏に、男役者と、やもめ二人が同居していたが、そんな時、彼はすっかり世話女房だった。片っぽが帰らない朝なんぞはブツブツいって女中と一緒に働いていた。
ある朝、片っぽの男に捨られた女が、勢い猛に押寄せて来た。彼女は、昨夜《ゆうべ》、自分の情夫《おとこ》が他の女《もの》と一緒にいたことを耳にして、大変なけんまくで駈けこんで来たのだ。彼女は下駄もはいたままで座敷へ飛込みかねない物凄《ものすご》い有様だった。あたしを差おいて――と
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