この人の正体がやっとわかった。女形だったのだ、旧時代の遺物そのままに育てられて、久しく阪地へいっていた俳優だったのだ。東京の水になれないので、むかしのままのお坊ちゃんで、とお師匠さんはある時いっていた。お金ちゃんの説明によると、
「曙山さんは女の通りに育てられたのよ。けど、ほんとは女かもしれないわ。裁縫《おしごと》もよくするし髪も巧者《じょうず》に結うし、なんでもかでも女の通りよ。だけど男だっていうの、女の通りに育てられた男だっていうの。こんど来たら、なんだか男と半分半分になっちゃったけど、もうせんには、ほんとに女だったわ。だから、おッしょさんも、女のお弟子さんとおんなじだって――」
 そしていった。この間も、新富座《しんとみざ》へ乗込みのときは、以前《せん》の通りに――鬘《かつら》だったけれど――楽屋下地に結って、紫のきれを額にかけて、鼈甲《べっこう》の簪《かんざし》をさして、お振袖で、乗組んだのだと。
 あたしは気味がわるいと思った。どうしたって、あの大きな黒い顔は、そんな、花やいだ、たおやかさを思わせはしなかったから――
 ともかくこの人は、結局女ではなかったのだ。でも、そ
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