た。
「お前さんがそうやってると白糸《しらいと》がよさそうだね。」
「あたしもそう思う、鈴木|主人《もんど》をつきおうてくれるものがあれば――」
「川崎屋(市川権十郎)ならいいけれど――」
 曙山さんは、ふと、アンポンタンを見た。
「あの子がわたしのこと気狂というたのやろ、ほんに無理もないこと。これ御覧、綺麗《きれい》な長じゅばんだっしゃろ。」
 姐さんかぶりの曙山さんは、褄《つま》をあげて見せたが、
「よい事がある。」
といって着物を脱いでしまった。下には薄紫に遠山紅葉《とおやまもみじ》の裾《すそ》模様のあるちりめんの長じゅばんを着て、白はかたの細帯をまいていた。
「この上へお着せ。」
 おもよどんが、紅絹裏《もみうら》の糸織《いとおり》のどてらを長く上にかけた。
 曙山さんは懐紙《ふところがみ》で顔をあおぎながら立膝《たてひざ》をして、お膳の前の大ざぶとんの上に座り直した。
「さあ、みんなおすしおあがり。」
 おそろしく横柄だった。あたしはかつて他人から、そんな風に声をかけられたことがなかったから、いよいよ気狂いだと思った。けれどみんなは、嬉しそうに、楽しそうに、ゲラゲラ笑っていた
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