配り手拭をとらせると、上手に姐《あね》さんかぶりにして、すっと立上ると、
「おッさんの寛袍《どてら》をもっといで。」
と自分の帯をときだした。
 あたしはとんでもない事をいってしまったとしょげていたが、廻りの者はゲラゲラと笑って面白がっている。
 曙山さんという人は、わざとらしく怒りっぽく、
「お腹《なか》がすいとるのに、みな面白そうに笑ってからに、わたしばかりこんなことさせて――おごらんかったら怒る。」
「どういたしまして、これこの通り、ちゃんとお仕たくはしてござります。」
 おもよどんはそんな事をいって、大きなお膳の上にのせたおすしの大皿と、もひとつの高脚膳《おぜん》にのせたものをはこんできた。その上には酒徳久利《さかどっくり》ものっている――
「では、まず一ツ――」
 曙山さんは立ちながら腰をかがめて、お猪口《ちょこ》でなく、そばの湯呑《ゆのみ》をとってお酒をついで、ごくごくと飲みほした。
 あたしはまた溜息をついた。おしょさんはなんでだまって煙草《タバコ》なんか長い煙管《キセル》からのんき[#「のんき」に傍点]にふかしてるのだろう――
 と思いがけずおしょさんがこんなことをいっ
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