》から蹴《け》出されると、緋《ひ》ぢりめんだったり、薄紫ちりめんだったりした。黒ちりめんに加賀紋の羽織を着て、風呂敷ほどの絹半巾《きぬはんけち》を鼻からまいて、車からおりると、
「おッしょさん――」
て鼻声を出して、踊るように袖をバタバタさせて、
「おお寒む寒む、はよう温かいものでもおくれ。」
と妙に甘ったれた調子《アクセント》で太い声を出した。
 みんなが羽根や手鞠《てまり》をついていると、
「わたいも、つこ。」
と仲間になる。
「さあ、あんたはん、あげますウ。」
と器用に、なんでも巧者《じょうず》だ。
 アンポンタンは思った。この女《ひと》は、どっか大きな家《とこ》の娘で、病気――ばかのようなので、髪を断《き》らして遊ばせてあるのだろう、だから、あんなに無作法《ぶさほう》なのだと――そう思えたほど、堅気《かたぎ》の娘たちとは調和しない奔放《ほんぽう》さがあった。
 その人は斬髪《ざんぎり》だった。だが、その女の人が、なんで田之助の俳名と関係《つながり》があるのかがわからなかった。あたしの解釈では、くさ草紙の人物、環菊のお田之《たの》さんのように、これは生きた人間が田之助ぶっているの
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