き》きたがる私は、話にぶらさがるようにきいた。
「ゆいわたに結って、黄八丈の――あたしゃ、まあいやだよ、いい気になって……この子はいけない子だ。」
 ふと、その頃の自分とおんなじような、年頃の娘たちをあずかっている事を思出したのだろう笑ってしまった。
 だが、その娘さんたちに交って、娘のような、娘でないような人がひとりいた。お金ちゃんにきくと、アンポンタンが知る前に阪地《かみがた》へいった人なのだそうだ、曙山《しょざん》さんていうのだといった。
 曙山という名は、アンポンタンにも新しいものではない、まさかに子供でも、錦絵の智識から羽左衛門《はねざえもん》かとか尾上梅幸《おがみうめゆき》とかよぶようなこともしなかったから、曙山とは、沢村田之助《さわむらたのすけ》の俳名《はいみょう》だと知っていた。幕末頃のくさ草紙には、俳優田之助が人気があったからか、小意気《こいき》な水茶屋の女なぞに環菊《かんぎく》のお田之《たの》とかなんとか書いてあったほどだから、俳名の曙山も目からくる文字の上でのおなじみだった。
 その女《ひと》は黒い顔で、大きな鼻で、体はグニャグニャとしていた。長じゅばんが褄《つま
前へ 次へ
全18ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング