んの方はトットとすませて二絃琴に通うのだった。しまいには、勝梅さんは三日おき四日おきにしかいかなくなった。月謝が早く手にはいらないと、勝梅さん一家は当惑してしまう(妹と二人分だから)。そういっては悪いと思っても、貧にはかてずお婆さんかお君ちゃんがとりにくる――あたしの母はいくらその困ることをあたしに言いきかせてても、月謝を届けるのがおくれるので、それからは毎日けいし[#「けいし」に傍点]をあけて唄本《けいこぼん》の間を調べる。毎日そのままだ。もう二絃琴はさげてしまうと怒った。ほんとにさげられてしまった。
 けれど、あたしは平気で、無代《ただ》で稽古しに出かけてゆく。それがあたしの権利のように――おしょさんはなんとも言わなかったが母の方が困った。あたしは稽古そっちのけで芝居の研究をする――
 研究というときこえがいいが、覗《のぞ》いてきたままを台所でやるのだ。譬《たとえ》ば、丸橋忠弥の堀ばたとか、立廻りの見得とか、せまい台所でほんものの雨傘をひろげるのだから、じきに破いてしまうが、一方《ひとかた》ならない高島屋びいきは、小言どころではない。よくおぼえてきたよくおぼえてきたとほめる。ここの
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