はは》はうろ[#「うろ」に傍点]覚えでこんな事をいっている。
 裁判官が代言人の父に「では、それだけの金をどうしてつくる。」――保証するという意味をいうのであろう。
 父の答えがふるっている。「私の母はあの辺で有名な金持ちでありますからおしらべになればわかります。私は母の金をかりて納めます。」
 裁判官「さようか。」
 嘘《うそ》でない、それですんだのだといっているが、そんなばかなはずはない。それに吉原の方では、金は吉原から出して決して不自由をさせないからと言って来たが、とうとう出さないで済んだといっている。しかし父は秀造さんを自首させたそうだ。すこしばかり未決にいて放免になったがこの事件は被告が無罪になるまでにはかなりの骨折だったので、吉原では私の父でなければならないように大事にした。
 またその頃でもあろうか、吉原に娼妓の自由廃業があった。これは恥かしい事に父が楼主の方の味方をして勝たせた不名誉な事件だ。勝ったときくと、全国の女郎屋からおなじような訴訟を頼んできた。母は欲張って商業繁昌《しょうばいはんじょう》だとよろこんだが、父は断わって、あれは、あの事件が最後になるもので、もう法
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