。根下《ねさが》りの丸髷に大きな珊瑚珠《さんごじゅ》の簪《かんざし》を挿し、鼈甲《べっこう》の櫛《くし》をさしていた、ことさらに私の眼についているのは、大きくとった前髪のあまりを、ふっさりきって二つにわけ、前額《ひたい》の方へさげている。これは下町の娘たちはみんなそうしていたが、すこし大きくなると、も一つ奥の、髷《まげ》の横前へ、分けないで片っぽだけにして毛のきりめ[#「きりめ」に傍点]をゾッキリと揃えて曲げておく――男の小姓髷の前髪のように――その風俗が四十位の女の人がしていておかしくないほど、パラリとした顔立ちの、派手者《はでしゃ》だった。
秀造さんは私の老母《はは》にいわせると、伊井蓉峰《いいようほう》の顔を、もっと優しく――優しくの意味は美男を鼻にかけない――柔和《にゅうわ》にしたようなと言っている。私の眼には文壇では里見さんを大柄にして、ドッシリと落ちつかせ、ソツなく愛嬌《あいきょう》をもたせた面影《おもかげ》が残っている。
金瓶大黒はそうした時代の空気につつまれ、そしてまたその時代のある空気をつくっていた。高位高官の宿坊であり、鬼の金兵衛さんがパリパリさせていた楼《みせ
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