てくれた絵話《えばなし》のような絵が沢山あったのを、祖父《おじいさん》が丹念にとっておいてくれたのだが、どうしてしまったかなあ。どっちかになっておけばよかったのを、祖母《おふくろ》が、商人《あきんど》がいいといって丁銀《ちょうぎん》という大問屋へ小僧にやられた。」
 それがな、といって父は私のおかっぱの頭に手をおいた。
「丁銀のおばあさんも八釜《やかま》しやで、灸《きゅう》が大好きだから、祖母《おふくろ》の気が合ってたんでやられたのだ。」
「では小僧さんでもお灸を据えられたの!」
 あたしは大きな父が痛ましかった。私とおなじように、やっぱりお灸を据えられたのかと――そして祖母がよくはなす、
「祖父が丸の内のお出入り屋敷へゆくと、向うから、薬包紙《やくたいし》のように日にやけた小僧が、白い歯をだしてニヤニヤ笑いながら来るので、よく見たら家の息子だった。」
と。
 父は色が黒くて菊石《あばた》があったから、この上黒く干しかためた小僧だったら、どんなに汚なかったろうと思った。
 ――父はよく言った。菊石という号をつけようと思ったが、渓石《けいせき》の方がよかろうと、なんとか葱《ねぎ》という人
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