い》だったので、おなじ芸妓屋町に住居をもった。
 地味な気性でも若い芸妓である、雛妓《こども》のうちから顔|馴染《なじみ》の多い土地で住居《うち》をもったから、訪ねてくるものもある。見得の張りたいところを裏長屋で辛棒《しんぼう》しているのだから、察してやらなければならないのを、チンコッきりに厭《あ》きはてた父親は、一緒に住まわせなければ、晩にいってその家の棟《むね》で首をくくってやるといやがらせた。事実そうもしかねないほど思い入っているので、世帯《しょたい》を一つにしたが――娘の心は悲しかったであったろう。芸で売った柳橋だとはいえ、一時に負担が重すぎた。私は従姉《いとこ》をたずねていって、暗澹《あんたん》たる有様に胸をうたれて途方にくれたことがある。これが、あのはなやかに、あでやかに見える、左褄《ひだりづま》をとる女《ひと》の背《せびら》に負う影かと――
 平右衛門町の露路裏だった。柳橋の裏河岸《うらがし》に、大代地《おおだいじ》に、大川の水にゆらぐ紅燈《こうとう》は、幾多の遊人の魂をゆるがすに、この露路裏の黒暗《くらやみ》は、彼女の疲労《つかれ》のように重く暗くおどんでいる。一番奥の
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