。寒竹の垣根つづきの細道を、寒竹の竹の子を抜きながらゆくと何処でか藪鶯《やぶうぐいす》が鳴いている。カラカラと、辷《すべ》りのいい門の戸をあけると、踏石《ふみいし》だけ残して、いろとりどりな松葉|牡丹《ぼたん》が一面。軒下に下っている鈴をならすと、切髪の綺麗《きれい》な女隠居が出てきて、両手を揃えて丁寧におじぎをした。
『妙々車』『浅間嶽』などが私の膝の前に高く積み重ねられた。私は幾度か見たものもあればまだ一度も開いたことのないものもあった。小さな私が一心を魅《と》られてしまっている時にこの二人の閑人――老婆がどんな話をしていたのか、思出すことも出来ない。
「これだけ拝借して、一日三銭でよいと仰《おっ》しゃったよ。」
 湯川のおばあさんは帰り道でそういった。私の本の見方が、大人より大切にして、キチンと座って読んでいるのに、先方の老女が感心して安くしてくれたのだと、――それにしても、あんまり少額《すけ》ないお礼に驚いた。
「宅にあるのを、みんな読ましておあげなさい。お好《すき》なものを見せないなんて、わからない親御《おやご》さんだ。」
 そうも言ったのだそうだ。けれどその家にはくさ草紙よ
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