かねちょう》の煙草問屋へチンコッきりに通うようになった。あたしたちが牢屋《ろうや》の原《はら》とよぶ、以前《もと》の伝馬町大牢のあった後の町から、夕方になると、蝙蝠《こうもり》におくられて、日和下駄《ひよりげた》をならして弁当箱をさげて、宿《とま》り番に通って来てくれたのだった。
藤木さんはよくいろんな話をしてくれた。御上洛(将軍慶喜)のお供《とも》をしたことや、京女のこと――京女の体つきまでにせて、ヘンな京言葉をつかった。
「うつるか。」
ってやがるから、
「かさか。」
って聞いたらね、
「なにいうてやな。」
って怒りやがった。といった時、母がちらと聞いて、
「子供の前でそんなばかな事をいって。」
と立腹した。藤木さんは亀《かめ》の子のように首をすくめて、
「なにね、女郎《おやま》のはなしをしていたのですよ。女郎人形《おやまにんぎょう》なんていうと美しいが、ブヨブヨで汚ねえってね。」
アンポンタンは藤木さんの黄色い歯を見て、どうしても京の女郎というものが美しくないとは信じられなかった。
「ねえお滝さん、女郎《おやま》がこういったんでさあ、旦那さんうつる[#「うつる」に傍点]かって
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