と、間隔《あいだ》をもって立ちならんでいたのでもわかる。震災後の市区改正で、いまでは電車の走る区域になってしまっているかも知れない。
「よくあの墓石を売らなかったな。」
と誰かいうと、このお旗本は、杯口《ちょく》を下の膳《ぜん》の上において、痩身《そうしん》の男が、猫のように丸めた背中をくねらし、木乃伊《みいら》みたいに黒い長い顔から、抓《つま》みよせた小さな眼を光らせて、
「やったさ、お前さん。」
まあお聴きといったふうに、招き猫の手つきをする。
「大《あら》いところは目につくから――ヘッ、鰻《うなぎ》だと思ってるんだね、小串《こぐし》のところをやったのでね。性質《たち》(石の)のいいやつばかりお好みと来たのさ。そうさ、姐《ねえ》さんおかわりだ、ヘイ宜しゅうってんで、なんしたんだが、あんまり大きすぎたのはいけないね、眼にたつんで、客の方が二の足でね、なにせ、だいぶお立派な方々でございまして、ヘッて、平伏《かしこま》っちまやがるんだから。ありゃいけないね、あんまりゴテゴテの戒名《かいみょう》なんぞつけたのは。子孫へ不孝っていうもんだ――なにってやがる、さんざ香《こう》このように食っと
前へ
次へ
全13ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング