――首尾の松が枝竹町のって――百本|杭《くい》の向う河岸の、お船蔵の首尾の松さ、あすこにわれわれのもらう、幕府の米がうん[#「うん」に傍点]とうなっていても、そりゃもう我々のものじゃないって訳《わけ》でね。」
「どうしてお金にしてしまうの?」
「そこがね、どうも、ちっとお話にならない訳でね。」
 藤木さんは頭をクルクル撫《な》でた。すると祖母が赤い胴の着物をもって来て、
「寝間着《ねまき》の丈《たけ》が短くて、足がつめたいとお言いだそうだが、長いのが間にあわないから私の下着を着て寝たらよい。」
「へえ?」
 さすがの藤木さんも鹿《か》の子《こ》模様の赤い絹の胴をつまんで、呆《あき》れた顔をして言った。
「結構でございます。だが――いやに思わせぶりっていうわけで、有難いような、嬉しいような――百貫めの借銭負うて、紙衣《かみこ》着た伊左衛門じゃないが、昔をいやに思いださせるね。尤《もっと》も伊左衛門っていう柄じゃなかったってね。そうそう、あかい胴の方が似合う、お軽っていう役どころさ。――え? なんだって、猿芝居だって? 戯談《じょうだん》じゃないよ、廻りの八丈の方が本役だって? そうですよ
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