を知らない。およそ、木魚のおじいさんの一族で、あんなに客として歓待されたものはないのにと、無視された母のためにアンポンタンは軽い義憤をもった。
 だが、勝川のおばさんの生立《おいたち》をきくと無理はなかった。彼女としては、女中同様に追廻して使った姪に、さんの字をつけてよぶだけでさえ小癪《こしゃく》にさわる――そうした気風の彼女だった。深川佐賀町の廻船問屋石川屋佐兵衛の妻女――なれのはてではあったが、とにかく代言人長谷川氏の家を訪れてきたのだ。彼女の手許の召使いだった姪は、彼女の添《そば》にいたからこそ売出しの新商売《ニューしょうばい》の人の後妻にもなれたのだ、という誇りをもって――

 勝川のおばさんという名と一所に出るのは佐兵衛さんと、も一人お角力《すもう》という人だった。いま思えば三角関係だったのでもあろう。佐兵衛さんは旦那《だんな》で、勝川お蝶は権妻《ごんさい》上り、関取××は出入りの角力、そして佐兵衛さんはさしもの大資産《おおしんだい》を摺《す》ってしまってもお蝶さんと離れず、角力は御贔負《ごひいき》さきがペシャンコになってしまっても捨てず、だんだん微禄《びろく》はしたが至極平
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