顔を見ると言った。
「あたくしはね、あたくしのお墓を見てびっくりいたしましたのですよ。私は生きてるのか、死んでるのか分りませんでね。」
やっと分った。苳《ふき》を摘《つ》みに来たおばあさんは、寒竹《かんちく》の籔《やぶ》の中に、小犬を埋めたしるしの石を見て呆然《ぼうぜん》としてしまったのだった。
またある日、湯川老人が私の前に言いわけなさそうに立った。
「ばあさんを、ちと、悪くしてしまいましてな。」
小さな眼をパチパチと伏せた。あとから離れの住居へいってみると、身寄りの男たちが二、三人いた。彼らは具合わるくモズモズした。
おばあさんの体が生体《しょうたい》なくグニャグニャになったというのだ。レウマチで関節の自由がよくなかったので、台湾からよい薬を持って来たから飲ましたのだといった。それならば暗い顔をする訳はないがと思うと、効《き》きすぎたのだとまた言った。それは湯川氏の婿の一人の士族で、官吏をやめて日清戦争に台湾に従軍し、そのまま居ついてしまった土佐弁の、日本人ばなれのした人だった。
「台湾《あち》では、チトチトやってもよく効くのを、おばアさん一時《いっとき》に飲んだでナア、い
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