もなんでもあのコツだ。どうして、霧にかくれるというが、あなたの豁谷《たに》を渡るあれだ、あの※[#「口+息」、159−10]吸といったら、実際たいしたものだ。」
「いやどうも、そう仰《おっ》しゃられては汗顔のいたりだ。」
 ――だが、私が松の木の上にいる父を、老人《としより》の冷水《ひやみず》だとよびにゆくと、小さな声で、
「じいさんはやめたか?」
と訊《き》く、湯川老人の方へゆくと、
「や、もう、お父さんの若いこと若いこと、感服のいたりだ。」
と腰をのばす。この、老《おい》たる婿と、舅《しゅうと》と姑《しゅうとめ》が、どうした事か、毎日の、どんな些少《ささい》な交渉でもみんな私のところへ、一々もってくるのだった。三人の老人が、年寄らしいイゴで三すくみのかたちで、不平も悦《よろこ》びも感謝も、みんな私のところへもってくる。
「婆さんが腰をぬかして――なんともうす腑甲斐《ふがい》ない女《やつ》か。」
 湯川老人がそう言ってゆくと、入代《いれかわ》りに父が来て告げる。
「祖母《ばあ》さんが築山《つきやま》に座って、祖父《じい》さんに小言をいわれている。早く行ってやれ。」
 おばあさんは私の
前へ 次へ
全18ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング