離れの二階が一番乾いていたのと通風がよいので、みんなが其処《そこ》に集って暮すと、二人の老人はまた互に強がりはじめた。しかし、二人ともどこか悪くしている様子が見えた。私は七十代の父の方に説いた。
「どうも老爺さんが悪いらしいが、医者をよぶというとかからないから、お父さんが風邪をひいたことにして――」
「よし。」
老父は至極簡単で、もの事を逆にいえば唯々諾々《いいだくだく》なのである。
「なにしろ湯川老人は年齢《とし》だからな、医者に見せなければいけない。」
そして、その湯川老人はいった。
「ようごす、お父さんは頑固だからどうも強がっていけない。僕が医者にかかるというと、自分のためだとは知らずに、湯川もまいったなと言われるだろう。だが、なんぞ知らん、長谷川|氏《うじ》のために呼んだ医者だ。」
カラカラと笑ってつけたした。
「幸と硫黄はなんともなかった。書物《かきもの》をすこしやられたが、それはまた書けば書けるから、どうか御安心ください。」
だが、死期はせまっていたのだった。保《も》てるだけもった体は、ポクリと倒れるまで余命を保っていただけだつた。医者は言った。何ともないが死ぬだろ
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