四角である。老爺《おじい》さんの顔も大きな四角なお出額《でこ》で顎《あご》も張っている。そのくせ鼻は丸く安座《あぐら》をかいていて小さい目は好人物というより、滑稽味《こっけいみ》のある剥身《むきみ》に似た、これもけんそんな眼だ。白い髭《ひげ》が鼻の下にガサガサと生《は》えて、十二月の野原の薄《すすき》のような頭髪が、デコボコな禿《はげ》た頭にヒョロヒョロしている。悪口すれば、侏儒《くもすけ》ともいえる、ずんぐりと低い醜い人だ。
 その前にも逢《あ》ったかも知れないが、アンポンタンが意識した初対面の印象だった。彼の身辺《まわり》は石炭酸の香《かおり》がプンプンした。
「ヒョウソになる性《たち》だから、これは働きながらでは無理だ。」
 そういって女中を――台所働きの女中をおさんどんと呼ぶころだった。そのおさんが昨日《きのう》足の裏を咎《とが》めたのを気にしないでいたらば、熱が出て腫《は》れあがったのを診察して、養生にかえすようにと言った。
 老爺《おじい》さんが洋科のお医者が出来るのも初耳だった。あたしの家は頑固で、漢法医にばかりかかって練薬《ねりやく》だの、振りだしだのを飲ませ、外|傷《
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