ト》をマントのように着て手拭《てぬぐい》で咽喉《のど》のところに結びつけていた。山籠《やまごも》りから急に自分の家にもゆかず長谷川|氏《うじ》をたずねて来たのである。いそがしい父の小閑《ひま》を見ては膝《ひざ》をすりあわせるようにして座りこんでいた。いつも鉱山《やま》のことになると訥弁《とつべん》が能弁《のうべん》になる――というより、対手《あいて》がどんなに困ろうが話をひっこませないのだ。父は他人《ひと》の紛糾《ふんきゅう》事件で家族に飯をたべさせているのだから、煩《わずら》わしいことをきくので頭が一ぱいであったろうに、例の大木魚の顔がムズと前に出たらダニのように離れない。私は子供ながらハラハラした。父の前からはなるたけ離れているように家族は心懸けている。父も子供にも小言もいわない位に離れているのに――で、私は好奇だからでもなんでもなく、なるだけ大木魚の老爺さんの顔を自分の前にもってくるようにした。一体アンポンタンは家のものから遠ざかってポカンとしてばかりいたのに、木魚の老爺さんとだけ話をするのでよっぽど妙だったかもしれない。
「おじいさんに恐山《おそれざん》へでも連れてってもらうが
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