てきたりすると、妙な風躰《ふうてい》をした男がぞろぞろくるので嫌《いや》でならなかったが、家に帰って父に訊《き》くと、父はまたかというようで、
「老爺《じい》さんまた賺《だま》されなければいいが。」
と呟《つぶ》やいた。彼の周囲のものも、僅少《きんしょう》な家禄《かろく》放還金をみんな老爺さんの硫黄熱のために失われてしまっているのだということを、あたしたちも段々に悟《さと》った。
なにが湯川老人をそんなに硫黄狂人にさせたか知るものがない。ともかく四十年からの彼の事業である。重に北の方を歩いていたが小笠原島あたりにもなんのためか長くいた。山のめききは凄《すご》いほど当ったが、訓練にも工夫をつんだが、悲しいかな老爺さんの発明は、丁度お直参の株をかったのと同じようにいつも世界の年代からおくれている。強情で頑固なところが最進智識をすこしも求めようとしないで、自己流の工夫でコツコツやるのだった。そのうちに年月は十年も十五年も飛び去る。老爺さんの頭はだんだん凸凹が多く深くなって、黴《かび》がはえたようにそのくぼみに埃《ほこり》がたまる――
ある時、ヒョックリと現われた湯川氏は、赤い毛布《ケッ
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