であるとか、三野村《みのむら》だとか錚々《そうそう》たる大実業家となった人たちである。石川屋は三井物産前身の如きものだともきいたが、やがて石川屋は没落し、それよりずっと前に湯川氏はまた動きだした。あたしが知った老爺《おじい》さん湯川氏は、それからずっと後の彼だったのだ。
あたしの家《うち》で――彼のいう長谷川|氏《うじ》の宅で、彼のために小|晩餐会《ばんさんかい》が催されたことがある。彼の老妻や、他の娘や、娘たちの婿なども寄りあつまったが、客座敷ではなく常の食事をする室で、各自《めいめい》膳《ぜん》で車座になってお酒も出た。
「いや、どうも、かくお手厚い御饗応《ごきょうおう》にあっては恐縮のいたりで――」
木魚の顔が赤くなって、しどく豊《ゆたか》に、隠居《いんきょ》じみた笑いを浮べて、目をショボショボさせながら繰返していっていた。
「老爺さん、こんどこそはひとつモノにして下さい、なにしろ君にいためられた皆《みんな》が浮かばないよ。こっちの家《うち》だって、なんだかんだって大変だあね。」
そういったのは姉娘の婿――遠州では仲人にたった旗本だった。
「それは大丈夫だ、こんどはウンと
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