組の火消《ひけし》が提燈をふりかざして続いてくる。見舞人が飛ぶ。とても大通りは通られはしない。
子供たちは角に立って、ガクガクして飛んできておちくだける火の子の華《はな》を眺めていた。火喰鳥《ひくいどり》が空をまわってるからこの火事は大きくなるなどとろく[#「ろく」に傍点]な事はいわなかった。でなくてもこの火事はある[#「ある」に傍点]べきものとしてこの近辺の者には予想されていたのだった。松島町の方に火柱がたつということは毎夜|噂《うわさ》されていた。祖母をさすりに毎晩交替でくる、栄良だの栄信だのという小あんまたちまでが、自分たちも見たように咄《はな》すのだった。私たちも怖々《こわごわ》夜更けに出て見たことがある。そういえば気のせいか、下の方は見えないで、一抱え以上もある火気が――丸い柱が、ポッと立っているように思えたのだった。
書生たちは早くからあつまってきた。河岸《かし》を廻って細川様(浜町清正公様)のさきから、火事場の裏からでなければはいれまいと父も洋服を着て出ていった(その前までは刺《さし》っ子を着るのだったが)。火事場の中には、テンコツさん一家の一人に、肺病で寝ている、来
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