い。中島座という小芝居が非常に繁昌した――それも目で見たより、家の人がいうのが耳に残っていた方がかっている。
 テンコツさん森口嘉造氏はそこら一帯の大屋さんで、口利きで、対談事、訴訟にもおくれをとらぬ人、故松助演じるところの『梅雨小袖《つゆこそで》』の白木屋お駒の髪結《かみゆい》新三《しんざ》をとっちめる大屋さん、鰹《かつお》は片身もらってゆくよの型《タイプ》で、もちっとゴツクした、ガッチリした才槌頭《さいづちあたま》である。テンコツさんのいわれは知らない。一度何のことかと父に訊《き》いたら、拳固《げんこ》をかためて頭のところへもっていったようなことをしたが、私にはなんのことなのか分ったようで訳《わか》らなかった。たぶん、頭がかたい――頑迷だというのかも知れない。母にきいたら、頭の脳天《のうてん》に丁字髷《ちょんまげ》をのせていたのだともいった。
 テンコツさんの住居は、中島座の通りで、露路にはいった突当りだった。露路口に総後架《そうこうか》の扉《と》のような粗末な木戸があった。入口に三間|間口《まぐち》位な猿小屋があった。大猿小猿が幾段かにつながれていて、おかみさんが忙《せわ》しなく
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