》さんで、ニヤニヤ笑いながらいった。
「おやっちゃん、はじめましょう。」
あたしの背の――目のとどくところのうちは無事だったが、とうとう天理様の机がもちだされることになった。それでたりずに見台まで、鼠がひくようにひっぱった。勝梅さんが不思議がって探り廻しだしたのに吃驚《びっくり》した私は二ツ重ねた足台からおっこって、階下の人を驚かせ、二階へ駈《かけ》上らせた。勿体《もったい》ないといって盲目さんは泣いた。階下からは兄さんが、かわりの読物をかしてくれた。たしか『都の花』という新聞の附録だったが、苦しい生活を知らないあたしは遠慮もなく頁をあわせて立ちきってしまったので、コチコチの兄さんが疳癖玉《かんしゃくだま》を破裂させて梯子段《はしごだん》からどなり上って来た。だが、何が彼をそんなに怒らせたのか分らなかった。
『都の花』は近所からの借ものだったのだ。あたしはまた高いところの古新聞を読んだ。厠《かわや》のはどうにもならないが、梯子段の近辺は手すりにのぼった。窓の近くは窓にのぼり、欄間に手をかけて屋守《やもり》の這うかたちでした。向側のキリ昆布屋から危なくて見ていられないと苦情を申込んで来
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