むずかしいが、やっちゃんの唄をきくと大層よろこぶからと――これは体《てい》のよいおとり[#「おとり」に傍点]で、窓はいつもあけはなち簾《すだれ》だけにしてあったから人だかりがした。そのうちポツポツお弟子が出来てきた。
お弟子の種類が所がらで面白い、水天宮様のおきよめ[#「おきよめ」に傍点]――門前で五の日五の日に、神前へそなえる小さいお供餅《そなえもち》を細い白紙でちょいと結んで売る商売、中には売色で名高い女もあった。年増《としま》の芸妓の手ほどきなどで、そのうち裏から表通りへ越すようになった。階下《した》が住居で二階が稽古場、壁が汚《きた》ないので古新聞を一ぱいに善兵衛おじいさんが張ってくれた。勝梅さんは色白の毛の薄い大あばたで、眼が見えないから、壁の汚ないのは平気だが、子供のくせに潔癖性で、気味悪げに私が見廻すので、来なくなるといけないからと、大ふんぱつで張ってくれたのだった。
三味線が二張に見台《けんだい》。そのほかは壁の隅に天理王を祭った白木の小机があるだけ。私はお稽古を待っているうち中、うらさびしさにボンヤリしていた。六喜美さんのところは上り口に赤い鼻緒のポックリが足も入
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