くと――正《しょう》のもののお化《ばけ》かと思った。
キャッともスッとも声が出ないで、びっくらして見詰めていると、ニヤとしたように赤い唇を歪《ゆが》めて、上の方についてる片っぽの眉《まゆ》をピクリと動かした。
――その鼻は、お茶|碗《わん》の中を突《つ》つくほど高く、のめっていた。長い長い痩《や》せた青い顔、額に深い大きな痕《きず》あとがあって、そのために片っぽの眼がつりあがり眼玉が飛出している。髪の毛が額にぶるさがって、細っこい肩――体なんぞは消てしまって、顔ばかりしかないように見えた。大きな飯櫃《おはち》の蓋《ふた》を幾度も幾度もあけて、山のように飯を盛ると、すぐにまたよそっている。やっとそれがすんでしまうとお膳を押出して、だまって、吃驚《びっくり》しているあたしの顔をギロリと見た。
それが鎗《やり》一筋の主《あるじ》だという加頭義輝だった。眼の強《きつ》い、おなじように長い顔だが色の黒い輝夫という人が、紬《つむぎ》の黒紋附きを着て来ていたが、大変理屈ずきで、じきに格式を言出していた。あたしが脅《おび》えきっていると、怖《こわ》くはない、加頭の兄さんで、おとなしい人だと家の者
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング