がいった。あたしは武士だった人たちだから刀|疵《きず》であろうと思って凄いけれど敬意をもっていたら、あの人はあんまり遊んでばかりいたのであんな顔になったのだと言ったものがあった。
「いや、怖いはずです。」
と親味の弟でさえ言った。
「私たちでさえ、見なれていてもギョッとする時がありますからな、好い気持に寝ていてふッと目を覚すと、知っていながらよくはありません。一ぱい機嫌で帰った時なんか、お世辞なんぞいってくれない方がいいと思いますよ。」
「行燈《あんどん》のそばに、立《たて》ひざをして、横むきだったら、菊五郎の庵室の清玄《せいげん》だね。」
と父でさえいった。
末の弟は特長のない、それだけ普通の人だった。この一家は中の弟が家長になって、兄貴の方が居候《いそうろう》だった。女たちは封筒を張ったり、種々の内職をしていたが、時々男たちは殿様気分を出して威張った。三番目のあたしの妹を可愛がって、自分の家へ連れていってしまうこともあった。あたしたちは幼いお丸ちゃんによくこういって聞いた。
「あの顔こわくない?」
名の通り円満なおまるちゃんは首を振って笑っていた。
アンポンタンと妹のおまっち
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