ゃんは上野のお花見に、父に連れてってもらった時――もう夕方だった。多くの人が浮かれながら帰ってゆくあとを、父は子供の方は忘れたように桜を見ながらブラブラ歩いていた。二人は手をつないで後からついていったが、そろそろ暗くなりかけた時、賑やかな一団が、間は離れていたが摺《す》れちがった。鉢巻をした男の頭に肩車をして縋《すが》っている小さな女の子がいる。よく見るとおまるちゃんだった。赤いはだぬぎで、おんなじように鉢巻きをしていた。それをとりまく男女の一群は、みんな片はだぬぎで、赤や鬱金《うこん》の木綿の鉢巻きをしてはしゃいでいた。
「ああおまるちゃんだ。」
 彼女の小さい姉たちは声をかけた。
「おまるちゃん――」
 彼女は男の頭の上から答えた。
「亀《かめ》の年だあい。」
 そして、キャッキャッと悦《よろこ》んで男の頭を叩《たた》いた。叩かれているのは理屈やの輝夫だった。
「そうだ、そうだ。」
と男女は陽気に合づちをうって行きすぎてしまった。
 父はちょいと振りかえって笑いかけたが、声はかけなかった。あたしたちは、振りかえり振りかえりして、おまるちゃんが自分たちの方へこようとしなかったのをさび
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