我々が忠義なんだね。」
彼は子細らしく額にたらした、油でピカピカ光った毛を振りあげた。
「どうして手に入れたかとなると話が大変だが、我々は若先生にしようと思う、大学に学んだ人をあのまま殺すに忍びないからね。もう半年で卒業っていうんじゃないか。」
それから言った。女の子なんか、鰻《うなぎ》ならメソッコみたいなもので話にならぬと――それからまた声を秘《ひそ》めていった。
「肺病には死人の水――火葬した人の、骨壺《こつつぼ》の底にたまった水を飲ませるといいんだが――それもまた直にくる事になっている。これは脳みその焼いたのだよ。」
あたしが真青にでもなったのであろう。彼は近々と顔をよせて、小さな眼を凄《すご》めに細めて、怪談じみていた。
「僕の母は――お寺の隠亡《おんぼう》と知っているのだ。」
巌夫は十六位ででもあったのだろう。両親がうまく取入っているので、玄関の書生は絶対におかない家なのに、何時《いつ》の間にかいるようになった。神田あたりの法律学校へ通うのに、例の赤いシャツ、夏は白シャツ一枚で小倉《こくら》の袴《はかま》を穿《は》くので、横っちょから黒い肉が覗《のぞ》きだすので子供た
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