が晩にもってあがろうと思っておりましたって――ひょっとこが余計なことを言っちまうから……」
それでも縁側まで薬をもって来て渡してくれた。
「巌夫《いわお》、巌夫。」
面胞《にきび》が一ぱいな、細長い黒い顔、彼らの一人息子で、父六郎と同職業のいささか新智識であるところの少年と青年の合《あい》の子《こ》が、母親譲りの、細い小さな眼をもって、赤いシャツを着て出て来た。
「嬢《じょっ》ちゃんのお供をして、お前、おふくろさんに薬を一度お見せもうして、それからすぐに御病人のところへもってっておあげ。」
閑却されて、使者の役目まで忰《せがれ》に奪われた壮士は、撫然《ぶぜん》として忰に命令した。
「いちどきでは、せいが強すぎるというんだぞ。」
「よけいなことをお言いなさるな。」
彼女はグッと睨《ね》めた。あたしが帰る時はもう、彼女は物干棹《ものほしざお》で庇《ひさし》の上の猫どもを追いはらっていた。
巌夫は道々、半紙を四つ切りにしたのに包んだ、一服の薬について、いかにそれが霊薬《れいやく》であるかを話してきかせてくれた。多分の誇りをもって、そうした霊薬を手に入れる苦心を繰返していった。
「
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