んやおっかさんや。」
と猫のように優しくよんだ。どんな年寄りが出てくるのかと思ったら、色の浅黒い、顔の長いひっつめのいちょうがえしに結った、額に青筋の出ている、お歯黒をつけた、細二子《ほそふたこ》の袷《あわせ》に黒い帯をひっかけ[#「ひっかけ」に傍点](おかみさん結び)にした女が出て来て、
「なんだ今時帰って来て――」
と突然《いきなり》どなってつづけた。
「なまけものめ!」
「そ、そんな事はない。」
 荻野六郎はドンモリになっていった。
「薬が来ているだろう。」
 女は返事なんぞしないで、困りきっていたあたしには猫撫《ねこな》で声で、
「まあ嬢《じょっ》ちゃん、御一緒だったのですか? 爺《じい》におんぶしてらっしゃればいいのにさ。なにかまうものですか。お薬とりにいらしったんだって? まあ、まあ。」
 そしてまた六郎にはどなって睨《ね》めかえした。
「わかってるよ。薬なんぞ、今時分ノソノソ取りに来たりして!」
 彼女はニヤニヤと笑って、キュッキュッと長刀《なぎなた》ほうずきを噛《か》みならしながら、
「嬢《じょっ》ちゃん、ようく覚えてらしって、祖母《おばあ》様に申上げてください、あたし
前へ 次へ
全18ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング