者が、風はなし、自由に広しするので遊びにゆくので、とても壮観な位に、しまいには屏風もとりはらってしまっての追羽根になる。騒々しい位の羽根の音だ。
 糸店《いとだな》によった方に舞台があって、立派な衣装をつけた芝居を番頭たちが演《や》っている。そこも見物はギッシリだ。だがこうした足どめ策をしても、やっぱり外に忍び出るものは多かった。
 この広い店、中央の羽根つき場になる個所はずっと天井が高く、明《あか》りとりになっていて廻りだけにぐるりと二階がある。お客を接待する座敷の方は立派できれいだが、それでも薄暗かった。なぜなら、中央の広場の方の手すりから光りはくるが、肝心な表通りへ面した方には、たしか窓もない盲目建《めくらだて》だったからである。窓があったとしても、小さなので、細かい、格子ででもあったのであろう。そこから明りがさしたようには覚えていない。床の間には、小谷さんの娘さんがさした、大きな松竹梅の生花が飾ってあった。合宿室も、そうした二階のそこらにあった。台所に近い蔵前には、各自の姓名《なまえ》をかいた雑煮箸《ぞうにばし》の袋が、板張りに添って細い板割で造った、幾筋かの箸たての溝に、ずら
前へ 次へ
全20ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング