た。だから、品物を買っておくれといった。
そのすこしさきの町角に杯口屋《ちょこや》のおくんちゃんの家がある。お国《くん》ちゃんはあたしとおみき徳久利《どっくり》のように、長唄のおつきあい浚《ざら》いにお師匠さんに連れてかれた少女《ひと》だから、そのうちに書かなければならない。
学校の一軒さきに大きな人力車宿《くるまやど》があって、お勘《かん》ちゃんという、色は黒いが痩《やせ》がたなキリリとした、きかない気の、少女《こむすめ》でも大人のように気のきいた、あたしのために、あたしの家へよく忘れものや、言伝《ことづけ》を言いにいってくれた娘があったが、後に吉原で奴太夫《やっこたゆう》という名でつとめに出ているときかされたことがある。その手前に表通りの砂糖問屋の磨きあげた、黒塗りの窓のある住居蔵があって、お糸さんという豊かに丸っこい娘さんの琴の音がよく聞えていたが、隣りに、とてもみじめな乏《まず》しい母子《おやこ》二人の荒物屋があって、小娘のおとめさんもお婆さん見たいにうつむいて、始終ふるえているように見えた人だった。
その斜向《すじむこ》うに花屋があった。剥身《むきみ》のように幅の広がっ
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