の赤いものに目がついて、しゃがんで二つ三つとった。お其はだまって見ていたが――たんばほおずきが幾個《いくつ》破られて捨られてもだまって見ていたが、そのまま帰りかけると、大きな声で、
「盗棒《どろぼう》、盗棒、盗棒――」
と喚《わめ》きだした。もとより、あたしもお其にかせいして、盗棒とどなった。
諸方《ほうぼう》から人が出て来たが盗棒はいなかった。するとお其はあたしに指さして、
「盗棒!」
と言った。幼心《おさなごころ》にはずかしさと、ほこらしさで、あたしもはにかみながら、
「盗棒!」
とおうむがえしに言った。みんなが笑った。あたしの祖母がお褄《つま》をとって来て、巾着《きんちゃく》からお金を払い、お其にもやった。八百屋の親たちはしきりにおじぎをした。
おせんべやの首振婆さんが私を抱えて帰った。お其も遊びについて来た。
間もなくべったら市《いち》の日が来て、昼間から赤い巾《きれ》をかけた小さな屋台店がならんだ。こんどはお其があたしの後について、肩上げをつまんで離れずにいた。祖母や女中が目を離すと、コチョコチョと人ごみにまぎれ込んで、屋台のものをつまむので、そのたびにお其はハラハラし
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