を、遠くに流《なが》れてゆく三味線の音をきき、船の櫓のきしみを耳にしながら、話も盡きて、無言で漕がれてゆくのはさびしかつた。鐵橋や、鐵筋コンクリートの高樓や、高架線や、モーターボートや、種々な近代的都會美を輝やかせる花火の方が、どんなに花火らしい花火だか知れない。
 草原などで、ポーン、ポーンと、青い玉や赤い玉の出るお粗末な花火を上げるのも好きだし、門の凉台であげる線香花火も可愛いと思ふが、兩國の川開きだけは立派な上にも豪壯なのが好い。近ごろでは仕掛け花火を主にするやうだが、河畔に集る人にはそれでよいが、全市を飾る、兩國の川開きなら、何處のビルヂングの窓からでも眺められる、遠景をおもんばかつた、とても雄大な火傘が、つるべ打ちにうちあげられて、空を飾るのが近代都市美の上からいつても本當だと思ふ。そして時間は短かい方がいい。花火もお酒を飮みながら見てゐるとしても、飮みかたも違つて來てはゐはしまいか。麥酒を一ぱいグツと飮むと、パンパン、パンパンパンと空で裂ける音は景氣がよからう。胸がスーツとするだらう。おそらく元祿時代の昔の人は、そんな氣持だつたのだと思ふ。ハツと手に汗を握るくらゐ、氣の弱い
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