めなくなつちやつたんだが――
 畫孃《ぐわぢやう》はカラカラ笑つて
 ――その人は條虫《さなだむし》だが、あんたのは、虫にしたら、なんだらうなあ。
 私はその時、ふと、わに[#「わに」に傍点]のことを思ひだした。去年大石千代子が、サンポーロから歸つて來た時から、鰐をほしくないかといつてゐたがこんどフイリツピンヘ行くので、鰐をどうしようといふので、春子の畫室へ吊しておいてもらつたらいいといつたことを、傳へておかうと、
 ――さうさう、春ちやん、鰐を二ツあづかつておくんなさい。
 春子|畫孃《ぐわぢやう》は眼を輝かして、
 ――一匹くれない? 小さい奴は柔らかいからハンドバツグにしても好いし、もすこし大きければ、靴と鞄だ。
 と慾ばつたことをいつてゐる。それを聞くと私はクツクツと笑つた。
 ――貰つて來た大石さんも、小さければ置物になると思つたのだつて。日本人で、とても鰐を釣るのがうまいと自慢する人があつたので釣るといふから、ちつさいのに違ひないと、ひとり合點で、お土産に釣つて下さいと頼んでおいたらば、いざ出帆といふ時に、汽船へ擔ぎこんで來たんだつていふの。
 ――え、擔ぎ込んで來たつて?
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