さうゆゑ、家の、古い人たちがお孃さんと呼ぶので、畫孃《ぐわぢやう》としておく――彼女が三上をしきりに慰め、盛んにしやべるには、
 ――これは本當の話で、大毎《だいまい》にもたしかに出てゐたんだけれど、大阪の人でね、一斗づつお酒を飮む人があつて、それが毎日だからたまには諫められたけれど、なんの糞と、別あつらへの體だと思つてゐると、すこし工合が惡くなつたんで、お醫者さんに見てもらふと、お酒のためぢやなくて、七卷半の、三上山の大|蜈蚣《むかで》ではないが、お腹一ぱいに條虫《さなだむし》の大きな奴が蟠踞してしまつてたんだつて――
 そこまではまじめだが、
 ――なんしても、米の水一斗も、毎日攝取してゐたのだから、條虫の榮養はおどろくばかりよくつて、飮んでやる機械になつた人間の方は弱つちやつたわけで、結局條虫が酒豪だつたつてことになるのね。うン? なに、そりや直ぐに出た。うまい酒が、今日は來ないなと、奴さん大きな口をあけて待つてたから、一日絶酒したあとへ來たやつを、ガブリとやると藥だつたから、すぐ效《き》いちやつて、わけなく手《た》ぐり出されちやつたんだが、條虫が出ちまつたら、その人は、一升も飮
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