夏の女
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)上布《じやうふ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)心中|宵庚申《よひかうしん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)コチコチ[#「コチコチ」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぶら/\
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 一夏、そのころ在阪の秋江氏から、なるみの浴衣の江戸もよいが、上布《じやうふ》を着た上方の女の夏姿をよりよしと思ふといふ葉書が來たことがある。ふといま、そのことを思ひだした。

 上布には、くつきりした頸《えり》あし、むつちりした乳房のあたりの豐けさをおもはされる。落附いた御内室《ごないぎ》さんである。なるみの浴衣は洗ひがみの、脊のすらりとした、といつて、お尻に女らしい艶やかさをうしなはない、なで肩を思はせる。前の女は、すこしばかり耳が肉ついてゐても目立たないが、後のは、あんまり大きかつたり、平べつたかつたり、ひつついた貧弱なのだつたりしては困る。花片の散りたてのやうな清新さが耳になくてはならない。鼻には神經が見える女《
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