き現し、あじあはせてゐる。
 紀の國屋源之助が、ひつかけ帶の結びかたがやかましいといふことを聞いたのは、ずつと前のことである。もうかれこれ二十年も前のことであつたらうか、故左團次の夢の市兵衞の女房をした時の印象がぼんやりとうかんでくる。紀の國屋の衣裳かたの胸に針が光つたのを、誰かが咎めたときに、太夫が帶の結びかたがやかましいのでね、といつてゐたやうにおぼえてゐる。源之助のひつかけ[#「ひつかけ」に傍点]ほどよい恰好なのは見たことがない。男優ゆゑほんものの結びかたよりは、よほど長めでなければ、脊すがらとつろく[#「つろく」に傍点]しない。それがいかにも、解けもせずよい具合に結べてゐる。だらしない感じなぞをすこしも與へずに、いかにもきりりつとした、氣の利いた姿であつた。思へばあの後つきは、帶の結びかたひとつで色氣をもたせてゐたといつてもよいほどであつた。その後、多くのひつかけ[#「ひつかけ」に傍点]を舞臺の上で見るが、河合のも、喜多村のも、梅幸のもあれほどにはどうしてもゆかない。梅幸のは上品がつきまとひ、河合、喜多村のには、どうも水ぎはがたたない。それはよんどころないことかも知れない。上布
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