下町娘
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)扮裝《おつくり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)食用|鷄肉《かしわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ゾベラ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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江戸の女を語るには、その階級から語らなければならない。
武家と町人――それはその時代の何處にもカツキリとされた區別であるが、江戸にはもひとつの別階級がある、職人である。
下町娘の總稱は、町人、職人を一つにまとめて、日本橋、京橋、芝、神田、下谷、淺草、本所、深川に住んでゐた、下町つ子の娘をさしてさう呼ぶ。だが、その下町娘の中に二種類があるといはなければならない。富裕な町人の娘の階級と、さうでない層の娘。私はあとの方のをこそ下町娘であると思ふ。いま、歌舞伎劇などで、下町娘の代表になつてゐる扮裝《おつくり》は、白子屋お熊や、八百屋お七であるが、あれは丁度その眞中をいつてゐる好みだといへる。
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黄八丈に黒繻子の襟、緋《ひ》鹿《か》の子の半襟、絞りばなしの鹿の子の帶。結綿《ゆひわた》島田に朱ぬりの差櫛、花簪。
[#ここで字下げ終わり]
出來れば、下町生れの娘はみんな、そのおつくりを好んだに違ひない。また、似よつたおつくりもしたかつたであらう。だが、江戸時代でも、明治のはじめでもさうであつたであらうが、あたしの知つてゐる下町の娘はもつと働いたから、あんなゾベラ/\とした姿をしてゐなかつた。
一體に侠《きやん》なとりなり[#「とりなり」に傍点]――侠《きやん》とはフラツパーとはいささかちがふ。侠氣をもつ、ハツキリとしてゐる。ものいひも、ものごしも――それが轉じて、おきやんな(お轉婆、もしくはあばずれ)鼻つぱりばかりの腹のないものにもなつたが、由來は、生々した、清新な、瀟洒と清楚をたつとんだ好みである。町奴ごのみである。で、どこやら男性的で、少年の美――若衆だちといつた顏や、眉や、眼のはりや、キビ/\した、溌剌さをふくんで、いはゆる張りの
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