へ案内された。打|揃《そろ》って座についたが、本堂は硝子障子が多いので、書院よりは明るいが、その冷《ひえ》はひどかった。読経《どきょう》もすこしも有難みを誘わなかったが、私は、眼の前の畳の粗《あら》い目をみつめているうちに、そのあたりの空間へ、白光りの、炎とも、湯気《ゆげ》とも、線光とも、なんとも形容の出来ない妙なものが、チラチラとしてきた。
 ――遠藤清子さんは悦《よろこ》んでいるだろう。
 たしかにそうも思いはしたが、それよりも、急に、わたしの胸を衝《つ》いてきたものがある。廿五年の歳月は、こんなにもみんなを老《お》わしたかと――
 誰の頭髪《あたま》にも、みんな白髪《しらが》の一本や二本――もっとあるであろう。その面上にも、細かき、荒き、皺《しわ》が見える。
 ひとり、ひとりが、焼香に立った。
 悪寒《おかん》が、ぞっと、背筋《せすじ》をはしると、あたしはがくがく寒がった。雨のなかを通りぬけて来た時からの異状が、その時になって現われたのだが、すぐ後《うしろ》にいた岡田八千代《おかだやちよ》さんがびっくりして、
「はやく、火鉢のある方へ行かなければ。」
と案じてくれた。生田花世《い
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