ろうと、家《うち》のなかを見廻して清子は言った。
「とにかく、同棲しても、まだ友人関係なのですから、あたしの寝間《ねま》は、此処を茶の間にして、そっちの六畳ときめますから。」
「では、僕は、八畳の方か。あすこ、客間だね。」
と泡鳴氏はいった。二人は寒い、なんにもまだ置いてない室《へや》に眼をやった――その寝間から、いびきは洩《も》れてくるのだった。
「あんなに、泣いたり、怒ったりしても、よく寝られるものだ。」
清子は毎夜のように持ちあがる、二人の間の暗闘――許す、許さぬの絡《から》みあいを思った。俺《おれ》は腹を切るといって怒るかと思えば、これほど熱愛を捧《ささ》げる誠意を酌《く》まないのかと泣く男が、枕《まくら》につくと、ぐっすりと寝てしまうのを、不眠症になってしまって、朝まで眠れない自分とを思いくらべた。
――けれど、だんだん私は岩野を好きになっている。
と思わないわけにはゆかない。けれど、恋愛《こい》の芽もまだ宿してはいないと、心で頭《かむり》は横に強く振った。
そんなことを思う傍らで、まだ移転《ひっこし》の日のつづきを思い出しているのだった。翌日に着いた泡鳴の荷物は、荷車
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