へ案内された。打|揃《そろ》って座についたが、本堂は硝子障子が多いので、書院よりは明るいが、その冷《ひえ》はひどかった。読経《どきょう》もすこしも有難みを誘わなかったが、私は、眼の前の畳の粗《あら》い目をみつめているうちに、そのあたりの空間へ、白光りの、炎とも、湯気《ゆげ》とも、線光とも、なんとも形容の出来ない妙なものが、チラチラとしてきた。
――遠藤清子さんは悦《よろこ》んでいるだろう。
たしかにそうも思いはしたが、それよりも、急に、わたしの胸を衝《つ》いてきたものがある。廿五年の歳月は、こんなにもみんなを老《お》わしたかと――
誰の頭髪《あたま》にも、みんな白髪《しらが》の一本や二本――もっとあるであろう。その面上にも、細かき、荒き、皺《しわ》が見える。
ひとり、ひとりが、焼香に立った。
悪寒《おかん》が、ぞっと、背筋《せすじ》をはしると、あたしはがくがく寒がった。雨のなかを通りぬけて来た時からの異状が、その時になって現われたのだが、すぐ後《うしろ》にいた岡田八千代《おかだやちよ》さんがびっくりして、
「はやく、火鉢のある方へ行かなければ。」
と案じてくれた。生田花世《いくたはなよ》さんも、外套《がいとう》をもって来ましょうかといってくれた。
みんなも気がついて、向うへ行っていよとすすめる。焼香もすましているので、あたしは親切な友達たちのいう言葉にしたがった。
外套にくるまって、火鉢に噛《かじ》りついていると、どんなふうかと案じて来てくれながら、そうではないような様子に、
「おお寒い寒い。」
と、自分も逃げて来たように言って、八千代さんはそこらの障子を閉《し》めてくれて傍《そば》へ来た。
「どう? お寺で風邪《かぜ》なんぞひいたらいけないから。」
あたしは大丈夫と言いながら丸くなって、友達の顔も見なかった。見たら、涙が出そうでしかたがない。
みんな、たいした苦労だ――
と、そればかりを噛《か》むように思った。みんな、跣足《はだし》で火を踏んだような人たちだ。今日《こんにち》の若人《わこうど》たちの眼から見たらば、灰か、炭のように、黒っぽけて見えもするであろうが、みんな火のように燃えていて、みな、それぞれ、その一人々々が、苦闘して、今日の、若き女人《ひと》たちが達しるというより、その出発点とするところまでの茨《いばら》の道を切り開き、築きあげて来
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