》はくやしいと思っても、段々|馴《な》れて、それに反抗心も出て、勝手になんでも言うが好《い》い、いくらでも書くが好いという気になって、意地悪になってしまって……」
六
彼女の頬《ほお》は、暖炉や飲料《のみもの》のためではなくカッと血の気がさした。それを見ると、わたしは気持ちがすがすがしくなって、お鯉は生ている、生作りの膾《なます》だと、急に聞く方も、ぴんとした。
「あたしは貴女にいろいろ聞きたいことがあるのですが、みんな後にしてしまって、桂さんに御死別《おわかれ》になったあとのことが――さぞ、世評は誤解だらけでしょうから、ありのままのことをお話して頂きたいのです」
わたしが無作法にも、訪問記者のようなことを言出したのは、あの頃――桂侯爵の逝去ののち、愛妾お鯉に、いくら面会をもとめても家人が許さなかったというような新聞記事を見ていたからであった。気の弱いわたしはそこまで立入った問《とい》は心がゆるさなかったので、その真偽は聞きもらしたが、思いがけない面白い――面白いといってはすまない、その人にとれば、いままで、善を悪として伝えられ、白を黒と発表されていた事柄なのだっ
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