の角にあるカフェーの横の扉《とびら》に、半身を見せて佇《たたず》んでいる給仕女《ウェートレス》があったので、ためらわずに近寄ってきくと、その娘は気軽くて優しかった。こちらからゆけば資生堂の一、二軒手前で、交番のじき後になっていることを、すこし笑いながら言って指差して知らせてくれた。わたしも微笑《ほほえ》ましくなった。若い娘さんに若い巡査さん、どっちも良い人で、好意をもってくれたことを感じた。娘さんにお礼をいって、笑いながら別れて、ぐるりと廻って交番の近くまで帰ってゆくのに、先刻おしえてくれた巡査の目にとまりたくないと思った。折角の好意が無になって、妙なものになるであろうと思い思い行った。
冬靄《ふゆもや》が紫にうるんだような色の絹のカーテンが、一枚ガラスの広い窓に垂れかけられて、しっとりと光っているところに金文字でカフェーナショナルと表わしてあった。外飾りなど見るひまもなく、周章《あわて》て、扉の口へとびこんだ。カフェーへだとて、飲料《のみもの》がほしければはいりそうなものであるが、若い人の、歓楽境のようにされてるそうしたところへは、女人《おんな》はまず近よらない方がいいという、変
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